与謝野晶子が歌にした銀泉誕生の地
2023年3月17日
有馬歴史散歩
桜の季節になると多くの花見客で賑わう有馬温泉。
街中に幾多あるスポットの中に、桜にちなんだ知られざる名所があります。
日本人が愛してやまない桜。この桜という言葉は、農作物の穀霊(山の神・田の神)」として信仰されていた「サ神」と、神の座(クラ)から成ると言われます。古の時代、農民たちは田の神が宿る桜の開花を目安に田植えを行っていました。そして、豊作を祈って、料理や酒を用意して神をもてなしたそうで、このハレの席が花見の起源であるとも言われます。
庶民の間で行われてきたお花見ですが、宮廷で桜がもてはやさえるようになったのは平安時代になってからのこと。奈良時代には中国文化の影響を強く受けていたこともあり、花と言えば梅を指しました。奈良時代に編纂された万葉集にも、梅を読んだ歌が多く見られます。それが、遣唐使の廃止後、独自の文化が育まれる中で桜に注目が集まるようになったそうです。これは、平安時代の古今和歌集に桜を詠んだ歌が、梅よりも多くなったことからもわかります。
このように多くの歌人に読まれてきた桜ですが、有馬にも桜にちなんだ歌があります。「ほのかなる 桜の光添いたりな 鳥地獄にも 虫地獄にも」。これは、有馬を訪れた与謝野晶子の歌です。鳥地獄・虫地獄とは有馬温泉の地獄谷と呼ばれる谷あいのこと。かつて、そこにあった泉の周辺で鳥や虫が大量に死んでいくことから、泉の水は毒水として恐れられていました。しかし、明治八年に当館の初代館主であり、湯山町(現・北区有馬町)町長を努めていた梶木源治郎が、内務省の試験場に分析の依頼をしたところ、良質な炭酸水であることが判明。これが有馬の二大名湯、金泉に並ぶ源泉の誕生であり、そこは後にサイダー発祥の地となりました。有馬を代表するお土産「炭酸せんべい」が生まれたのも、この発見があったからです。各所を彩る満開の桜も見どころですが、この春は与謝野晶子も訪れた知られざる名所へ足を運んでみませんか。
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