農学博士に訊く、本当のおいしいとは?
農学博士×料理長 対談
2022年4月27日
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おいしいのメカニズムを探る
農学博士の佐藤先生に「和食」や「おいしい」についてうかがいました。
写真(中央):佐藤 健司 農学博士
京都大学大学院 農学研究科 教授。食品科学、食品機能学を専門とし、和食や発酵食品にも造詣が深い。
写真(左):藤口 晃一 有馬グランドホテル総料理長(別墅 結楽・時分時 担当)
写真(右):下浦 良之 有馬グランドホテル料理長(中央館・北館 担当)
身体が欲するおいしいは、
健康にも良い
佐藤:健康に良いイメージのある和食ですが、最近の研究ではそれが科学的にも証明され始めています。例えば、味噌や醤油、日本酒などの、和食に欠かせない発酵食品は、摂取することで腸内細菌叢が改善されることがわかってきました。腸内細菌は、糖尿病や大腸がんをはじめとする生活習慣病の一因とも言われます。つまり、腸内環境の改善は、生活習慣病の予防にも繋がるということです。実際、お味噌汁を毎日飲むことで生活習慣病のリスクが軽減したという研究データもあります。
その一方で、食の多様化に伴って和食離れが進行。近年の減塩志向も、味噌汁離れに拍車をかけています。ある研究によると、年代ごとの日本の食を分析したところ、一九七五年頃の食が最も健康によかったそうです。その年代は、味噌や醤油の消費量が最も多かった時期とも一致します。当時の人たちは健康に良いものを、本能的においしいと感じて食していたのでしょう。
下浦 : 確かに現場にいる私たちも食の傾向が大きく変化してきているのを実感します。食の多様化もその一因ですが、インターネットやテレビの影響も大きいのではないでしょうか。最近はメディア等で「糖質制限」などといった言葉をよく目にしますが、実際に朝食ビュッフェでも炭水化物は避けて野菜を中心に取られる方が増えています。
忙しい現代人が
本当のおいしいを味わえる場所
佐藤:大量調理されたものをよく食べるようになったことも、和食離れが進んでいる要因の一つかもしれません。忙しい現代人にとって、自分で調理をせずともいろんな食を楽しめるようになったのは喜ばしいことです。ただ、基本的に薄味の和食は、大量調理をして時間を置くと味がどうしても落ちてしまいます。一方で味付けが濃く、油分の多い洋食は脳がおいしいと感じやすい。その違いが結果として和食離れと食の欧米化を加速させたのかもしれません。
藤口:先生が仰る通り、和食が生きるのは丁寧な暮らしがあってこそ。生活が多様化し昔のような暮らしを取り戻すことが難しい今、私たちにできるのは非日常の中で身体が自然と欲するおいしいを提供することだと思っています。お味噌汁にしても、天然の鰹節と昆布から丁寧に取ったお出汁を使う。お部屋食ならごはんは杉のお櫃に入れてお出しし、ふくよかな香りと風味を感じていただく。家庭ではできない日本の古き良き文化が息づいたお料理を通じて、本当のおいしいを感じていただけるとうれしいですね。特に朝食ビュッフェは思い思いにお料理をおとりいただけるので、普段お召し上がりにならない方も和食を取り入れてみたり、お子さんやお孫さんに出汁の旨味を体験していただくのもいいのではないでしょうか。
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