灘の酒

新潟の淡麗辛口に対して、濃醇辛口と称される灘の男酒。その酒が唯一無二である理由の背景には、仕込み水である「宮水」の存在があります。最高の酒造好適水とも言われる宮水が、なぜこの一帯で湧き出すのか。地質学的観点からその理由を探ります。
灘の地形は、約300万年前のフィリピン海プレートの運動方向の変化によって形成されました。方向転換以降の地盤の隆起によって生まれたのが六甲山であり、沈降によって生まれたのが大阪湾です。花崗岩で構成される六甲山系の伏流水は鉄分の少ない軟水です。それが、かつて大阪湾の海底の一部であった西宮市南部の粘土層で貝殻を含む地層の中を流れる間に、カルシウムやリン等の成分が溶け出すことで中硬水へと変化。そうして湧き出したのが宮水であり、特徴的な性質が日本酒の発酵過程を大きく助けています。例えば、多く含まれるカルシウムは、麹菌が米のデンプンを糖に分解する際に酵素の働きを活性化。リンは酵母菌を活性化させ、糖をアルコールに変える工程をスムーズに進めます。その結果、宮水を使った日本酒はお米の成分を余すことなく引き出し、濃醇で力強い味わいが生まれるわけです。旨味の強い灘の酒は桜鯛や鰆といった白身にも濃厚な神戸ビーフにも最適。春を彩る兵庫五国の恵みとのマリアージュをご堪能ください。