香り高き、有馬山椒の秘密
2026年3月4日
兵庫美食地質学
湯けむりと共に広がった有馬の山椒
「有馬煮」や「有馬焼き」。日本料理の献立で、この地の名を目にすることは少なくありません。その由来となり、古くから愛されてきた名産品が「有馬山椒」です。これは特定の品種のみを指す言葉ではなく、この六甲山系で採れる山椒と、それを愛でる文化を総称する歴史ある呼び名であることをご存じでしょうか。そのルーツは、室町時代にまで遡ります。永禄二年(一五五九年)創業の老舗佃煮店「川上商店」によると、当時、有馬周辺の山野には良質な山椒が多く自生していたといいます。人々はその恵みを摘み取り、佃煮にして湯治客に振る舞いました。東西から多くの人々が行き交う温泉地ゆえに、その鮮烈な風味は旅の記憶と共に各地へ拡散し、「山椒といえば有馬」という名声が定着していったのです。
有馬山椒の真髄は、実だけでなく花や樹皮まで味わう多彩さ。優雅な香りの「花山椒」、強烈な痺れの「辛皮(からか)」、時期で変化する「実山椒」。部位ごとの個性を料理に合わせて使い分ける知恵こそ、有馬に伝わる流儀なのです。
当館でもこれに倣い、風薫る季節を彩るおもてなしをご用意しました。希少な花山椒を贅沢に用いた「黒毛和牛山椒鍋」。対して、旬の魚介を味わう「山椒風味鍋」は木の芽の香りで優雅に。さらに実山椒の辛みが癖になる「牛と鰻の有馬山椒煮」も、季節を彩る一品です。花・葉・実。三様の個性を活かした有馬ならではの春の味覚を、それぞれの献立でご堪能ください。
このように多彩な味わいで料理を彩る有馬山椒ですが、その多くは地元の契約農家によって大切に育てられています。機械化が難しい山椒の収穫は、今も人の手による丁寧な手摘みが基本。「良い木があれば接ぎ木で残し、次の世代へ繋ぐ」。そうして守られてきた一本一本には、有馬の風土と生産者の想いが凝縮されています。 単なる薬味の枠を超え、主役級の存在感を放つ緑の宝石。湯の香りと共にこの地で育まれた、歴史ある「しびれ」と「香り」を、ぜひ五感で味わってみてください。
川上商店では、自家農園と契約農家の皆さんが一粒ずつ手摘みで収穫。機械を使わず丁寧に摘むことで、
山椒本来の香りと鮮度を大切に守り抜いています。
山椒は「捨てるところがない」と言われる万能食材。
部位ごとに異なる特徴を知れば、愉しみが広がります。

爽やかな辛味と香り。魚や肉と甘辛く煮て有馬煮にしたり、石臼挽きの粉は鰻に欠かせない名パートナーです。

一年に数日しか味わえない幻の味。特にお肉との相性は格別で、その高貴な香りと共にお肉をいただく喜びは、この季節だけの極上の贅沢です。

手のひらで叩くと香りが弾けます。お吸い物や、混ぜごはんには刻んで入れても爽やか。

希少な木の皮「辛皮」は佃煮に。突き抜ける強烈な辛味は、ご飯や酒が進む通の味。
明石鯛や蛍烏賊、筍など旬の山海の幸を、木の芽の香りで味わう春の鍋です。
神戸牛と季節野菜の山椒鍋。あっさりとした鰹出汁に山椒が香る、春らしい一品です。
山椒の爽やかな辛みが、神戸牛の旨みを引き締め、一層引き立てます。
牛肉と鰻の濃厚な旨みを、実山椒の爽やかな辛みが引き立てる至福の一皿。
兵庫産の山椒がふわりと香る、上品なお出汁。その高貴で爽やかな風味が、黒毛和牛の濃厚な旨みを一層引き立てます。
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