明石の紅葉鯛
2023年8月15日
兵庫美食地質学
キーワードは高速潮流と技
高級魚の代表格とされるマダイは、日本列島全域の沿岸に生息しています。その中でも圧倒的なブランド力を誇るのが、明石海峡周辺の六漁協で水揚げされる明石鯛です。特に、産卵を終えた夏にエビやカニなどのエサをたっぷり食べて脂が乗ったこの時期の鯛は「紅葉鯛」とも呼ばれ、一年のうちで最も旨いと言われます。
明石鯛が旨い理由のひとつとして挙げられるのが、漁場の地形です。瀬戸(海峡)と灘が繰り返す瀬戸内海は潮の流れが速く、明石海峡で育った鯛は筋肉質になります。この筋肉を動かす物質が旨味成分の元となるため、明石鯛が旨いわけです。また、明石海峡の西側にある鹿の瀬と呼ばれる浅瀬には、高速潮流に巻き上げられた砂が堆積。荒い砂地には砂の隙間にまで酸素が行き渡るため、エサとなるエビやカニが湧くように生息します。このようにエサに恵まれていることも、脂が乗り旨い鯛へと育つ大きな要因です。明石鯛のこの際立った旨味を引き出すには、一本釣り、活け〆、神経〆、熟成などの技も不可欠です。世界でも類を見ない地形によって生まれる高速潮流と人間の技。両者が揃ってはじめて瀬戸内海の至宝・明石鯛は輝きます。そして、その輝きがさらに増すのがこの時期です。お刺身にしゃぶしゃぶ…。脂の乗った紅葉鯛は、素材の旨味を味わえるお料理でお愉しみください。
瀬戸と灘が繰り返す瀬戸内海の地形は、300万年前にフィリピン海プレートの運動方向が真北から現在の北西方向へと変わったために、中央構造線の北側に隆起域(瀬戸)と沈降域(灘)が形成されるようになりました。
お話を伺ったのは…
巽 好幸 先生
「美食地質学」の創始者。『「美食地質学」入門~和食と日本列島の素敵な関係』が光文社新書から発売中!
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