居留外国人たちも訪れた関西を代表する避暑地「六甲・有馬」
2026年4月22日
有馬・語り帖
下駄の音とうちわが彩った「有馬の涼」
大阪や神戸の市街地から有馬へ来ると、肌をなでる空気の「質」が変わることに気づかれるでしょう。標高約四百メートルに位置するここは、古くから下界より三〜四度は気温が低いと言われる、関西屈指の避暑地でした。かつて明治の開港とともに神戸にやってきた居留外国人も、バケーションを過ごすためにこの自然な涼を求めて有馬の民宿に長期滞在したそうです。彼らが開拓した六甲山での登山やゴルフといった近代レジャーの文化は、今もこの街の誇りとして息づいています。
私の幼少期の原風景も、この豊かな涼に彩られています。夏休みの楽しみといえば、鼓が滝での豪快な水遊びでした。水場で泳いでは、冷えた体を熱せられた橋の欄干に寝転んで温める。その繰り返しが、当時の子どもたちにとって唯一無二の娯楽でした。
夕暮れ時になれば、温泉街は下駄の乾いた音で賑やかになりました。宿の浴衣に身を包み、うちわを片手に夜風を歩く。通りにはパチンコ屋や劇場、スナックが軒を連ね、夜更けまで人の笑い声が絶えませんでした。現在はホテル内で完結する滞在スタイルが主流となりましたが、かつては町全体が一つの大きな宿のように機能し、五感で涼を楽しむ文化が当たり前の風景としてそこにあったのです。
空調設備が普及した現代、「暑さを逃れるために来る」という避暑の形は変わりました。しかし、私は有馬の未来に新たな夢を描いています。それは、有馬を「関西の軽井沢」にすることです。かつて財界人や文化人の別荘が立ち並んだ高いステータスを再構築し、温泉という枠を超えた多面的なリゾートとしての価値を磨き上げる。そうすれば街のレベルはさらに上がり、次世代にも誇れる財産になると信じています。大地がくれた涼やかな記憶を胸に、有馬の新しい物語を皆さまと共に綴り続けていきたい。そう願っています。

お話を伺ったのは…
磯部 道生 さん
有馬出身の登山家。マッターホルン単独登頂など、数々の世界的な名峰に挑み続ける不屈のアルピニスト。

昭和40年ごろのにぎわう有馬の温泉街
当時、子どもたちの遊び場だった鼓が滝と、昭和40年頃の温泉街。夜更けまで下駄の音が響いた賑やかな情景には、避暑地・有馬の原風景が息づいています。

鼓が滝前にて
開港とともに賑わった避暑地・有馬の情景
明治から昭和の頃、避暑地として親しまれた有馬の景色を、当時の写真とともに辿ります。

有馬町全景
六甲山の中腹に位置し、神戸の市街地より3〜4度気温が低い有馬温泉。財界人や文化人の別荘が建ち並んだ、関西屈指の保養地でした。
有馬温泉の景観
神戸港開港後の明治時代、居留外国人も訪れた有馬温泉。関西を代表する避暑地として、多くの人々に親しまれてきました。
鼓が滝
子どもたちが滝壺に飛び込んで涼をとった、昭和の夏の遊び場。清涼な水音がかつての有馬の夏を今に伝えます。
有馬川
下駄の音とともに人々が行き交い、夜更けまで賑わったかつての有馬川沿い。温泉と人と川が織りなした、夏の夜の情景がここにありました。
昭和2年ごろの六甲山頂の土地利用(稲見悦冶、森昌久「六甲山地の観光・休養地化について」より)
神戸開港(1868年)を機に居留外国人が六甲山を別荘地として開拓。ゴルフや登山など近代レジャーとともに、有馬・六甲一帯は関西を代表する避暑リゾートとして明治から昭和にかけて栄えました。
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