千年以上も前から、湯への祈りを受け止めてきた湯泉神社
2026年7月30日
有馬・語り帖
小さな温泉街に寺社が集まる理由
有馬温泉の町を歩かれますと、湯けむりのすぐそばに、神社やお寺が静かに佇んでいることにお気づきになるかもしれません。湯泉神社、温泉寺、極楽寺、念仏寺、有馬天神社、水天宮ー。山あいの小さな温泉地に、なぜこれほど多くの祈りの場が集まっているのでしょうか。その理由をたどると、有馬が古くから、湯を中心とした信仰の場として受け止められてきたことが見えてきます。
日本三古湯にも数えられる有馬温泉の歴史は、少なくとも千四百年近く前までさかのぼります。『日本書紀』には舒明天皇や孝徳天皇の滞在が伝わり、平安の世には白河法皇、のちに太閤秀吉もこの湯を愛しました。湯は、ただ体を温めるものではありません。病の平癒を願う人々を受け止め、疲れをほどき、心身を整えるもの。そうしたまなざしが、有馬の物語を形づくっていったのです。
その祈りの場のひとつが、当社・湯泉神社です。有馬の氏神として、また温泉をお守りする社として崇敬され、この土地の方々や湯治に訪れる方々の祈りを受け止めてきました。創建の年は定かではありませんが、延長五年、九二七年にまとめられた『延喜式神名帳』には、有馬郡の大社としてその名が記されています。
一方で、有馬の信仰は神社だけで成り立ってきたわけではありません。仏教が日本に根づいて以降、神と仏は人々の暮らしの中で分かちがたく結びついていました。当社も、かつては温泉寺と同じ場所に祀られていたとされ、神と仏が互いに寄り添いながら、この土地と湯を守ってきた歴史があります。
千年以上にわたり、人々の心身を癒やしてきた湯。そのそばで祈りを受け止めてきた神社や寺院。湯への祈りの積み重ねが、有馬を神仏のご加護が息づく土地にしてきたのだと思います。その名残は今も、湯泉神社・水天宮・有馬天神社を巡る三社巡りに息づいています。三社を結ぶ道は「有馬温泉パワースポットトライアングル」として親しまれ、湯の奥にある祈りの記憶をたどる場所として、多くの方が訪れます。幾世を超えて受け継がれる、湯と祈りの物語。有馬へお越しの際はぜひ湯に憩いながら、その奥行きにそっと触れてみてください。
お話しを伺った有馬人
別所 敬介さん
湯泉神社の宮司。子宝・安産祈願をはじめ各種ご祈祷に奉仕し、有馬温泉と深く結びつく湯泉神社を守る。
有馬温泉の起源にも深く結びつく湯泉神社。
毎年1月2日に行われる「入初式」は、有馬温泉の発展に尽力した神仏への感謝と繁栄を祈念する伝統行事で、神戸市の地域無形民俗文化財にも指定されています。

©兵庫県立歴史博物館蔵
江戸時代の名所案内『摂津名所図会』に描かれた有馬温泉。当時の湯泉神社は温泉寺と同じ場所に祀られており、神仏がともに湯を守る往時の祈りの風景を今に伝えています。有馬の信仰の深さを物語る一図です。
有馬の湯にゆかり深い
湯泉神社のいわれを訪ねて
有馬鎮護三神の伝承や本殿彫刻、平安の記録から、湯泉神社に受け継がれる祈りの物語を紐解きます。
有馬の湯を守る鎮護三神
有馬の湯は、大己貴命と少彦名命が、傷ついた三羽のカラスが赤い湯で癒える姿を見て発見したと伝わります。のち熊野久須美命を併せ、有馬鎮護三神として、今も有馬の湯と町を守る神々とされています。
平安の記録に残る千年以上の歴史
湯泉神社は、平安時代の神社名簿『延喜式神名帳』に記された大社の一つ。日本書紀には舒明天皇・孝徳天皇の有馬行幸も記録されています。
本殿に残る亀と三羽烏の彫刻
有馬は三方を山に囲まれ、北だけが開けたすり鉢状の地形です。風水では北を守る神が玄武=亀とされ、本殿に残る亀と三羽の烏の彫刻には、土地を鎮め、湯と町を守る祈りが託されたと伝わります。
毎年10月3日、湯泉神社で一年最大の祭り「例祭」が営まれます。直前の日曜には神輿が有馬の温泉街を渡御し、秋の一日を賑わいで包みます。かつては相撲大会も人気でした。
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