湧くだけでは届かない、有馬の湯をつなぐ「湯守」の仕事
2026年10月7日
有馬・語り帖
人の手で守り継ぐ名湯今日も湯船へ届くまで
有馬の湯は、放っておけば止まってしまいます。そう申し上げると、驚かれるかもしれません。有馬は近くに活火山がないにもかかわらず、高温の湯が湧く珍しい温泉地です。近年の研究では、地下深くへ沈み込むフィリピン海プレートから放出された高温の水が、その源と考えられています。 金泉は塩分や鉄分、カルシウムなどを多く含み、90度近い高温。そのため、湯を運ぶ管には炭酸カルシウムなどが固まった「スケール」が付着し、放っておけば湯の道をふさいでしまうのです。
泉源によって仕組みは異なりますが、地下の湯は「揚湯管」を通って地上へ上がり、そこから送湯管などを通って温泉街へ運ばれていきます。つまり、泉源から皆さまの湯船までには、一本の「湯の道」がある。その道を絶えず開け続けるのが、私たち湯守の仕事です。私が勤める有馬温泉企業では、数多くある泉源のうち6つを管理しています。
例えば、極楽泉源から御所泉源へ続く管は約140メートル。スケールがたまらないよう定期的に清掃し、地下から湯を上げる揚湯管も、状態を見ながら定期的に新しいものへ交換します。湯が湧き続ける限り、手入れもまた繰り返さなければなりません。
かつては、送湯管を外からハンマーで叩いて詰まりを落としていたそうです。今では道具や方法は進歩しましたが、熱い湯のそばに人が立ち、手を動かさなければ湯は流れない。その本質は今も変わりません。時代ごとに誰かが手をかけて守ってきた湯を、私たちも次へつないでいくのです。
作業中、旅の方から声をかけられることがあります。「今日はあちらの金泉に入りました」と聞き、「そのお湯、この泉源からも流れているんですよ」とお伝えすると、「いいお湯でした。ありがとう」と返ってくる。その一言に、この仕事のやりがいを感じます。
現在、当社で湯守を担うのは3人です。技術を次の世代へつなぐことも大切な役目。有馬を愛し、足を運んでくださる方々がいるからこそ、この温泉地は今日まで続いてきた。その方々が愛してくださる湯を守り、次へつなぐこと。それが、私たち湯守にできる恩返しだと思っています。
お話しを伺った有馬人
兵藤 篤さん
神戸電鉄で42年間、車両の保守・管理に携わったのち、2023年に有馬温泉企業へ。現在は湯守として6つの泉源を管理し、日々の点検や維持管理を担っている。
法被で街を歩き、有馬の魅力を紹介
午後の泉源点検では「湯守」の法被姿で温泉街へ。旅の方に声をかけられれば、泉源や湯の仕組み、有馬ならではの魅力を伝えます。
有馬を支える湯守の仕事
泉源から湯船まで、変わらず湯を届け続けるために。熱い湯と向き合いながら有馬を支える、湯守の日々の仕事をたどります。
送湯管清掃
泉源から湯を運ぶ送湯管には、温泉成分が固まったスケールが次々と付着します。そこで、全長約140メートルある送湯管に鉄製のロッドを何本もつなぎながら通し、内側を清掃。この作業で取り除かれるスケールは、年間約9.5トンにも及びます。
揚湯管交換
地下から地上へ湯を導く揚湯管は、スケールがたまりやすく、3〜5日ほどでふさがることも。そこで定期的に交換しますが、炭酸ガスの圧力で湧き続ける温泉を止めるのは容易ではありません。約2トンの水を注いで圧力を弱め、湯を止めている間に新しい管へ交換します。
泉源点検
有馬の湯は、泉源ごとに湯温や成分、湧き方、スケールの付き方まで異なります。午後には管理する6つの泉源を一つひとつ巡り、設備や湯の状態を確認。いつもと違うところはないか、小さな変化を見逃さず日々見守ることも、湯守の大切な仕事です。
状態測定
目で見るだけではわからない泉源の変化を捉えるため、月2回、湯温・湧出量・電気伝導率などを測定します。電気伝導率は、湯に含まれる成分の状態を知る手がかりの一つ。数値の変化を記録し、専門家とも連携しながら、大切な泉源の状態を継続して見守ります。
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